Employee Assistance Program、従業員援助プログラム
EAPとアルコール問題
EAPの歴史は産業革命以前のアメリカにさかのぼります。当時、飲酒は悪癖として社会問題化しており、アルコールそのものを排除する動きが活発化していました。1920年には禁酒法が成立したものの、アルコール問題を抱えた個人の状態改善はもたらしませんでした。 そのような中、1935年6月10日、ビルとボブという二人の男性によって、後に世界最大の自助グループとなるAA(Alcoholics Anonymous)が誕生します。この、アルコール依存症の当事者が仲間とともに自らについて語るAAによって、禁酒法でも医療施設でも改善しなかったアルコール依存症が回復しはじめたのです。AAの誕生は、アルコール依存症者に回復と、雇用継続の道を開き、職域でのアルコール問題対策に多大な影響を及ぼしました。 「語ること」と「つながること」を通して個人が主体性を取り戻すこの取り組みが、EAPの起源です。
組織の労働力を支える力を持つAAは、やがて多くの企業や政府機関のなかに導入されていきました。
周囲からの関わりの重要性
回復の道が開かれたアルコール依存症ですが、本人が自ら問題に気づき、自発的に相談に来るばかりではありません。むしろ、本人は「酒は飲んでいない」「個人の自由でしょ」などと問題から目を向け、改善に向けた取り組みを避けることもしばしばです。
こうなると困るのは、家族や職場の同僚、管理職といった周囲の方々です。いかに本人に問題を認識させ、AAに足を運ばせるか。周囲の方とこうした作戦を練る支援者がいることが、アルコール問題への介入の重要な鍵です。周囲の方が本人に何を伝え、何を聴くか。こうした検討を積み重ね、関係者をバックアップしながら、支援者はノウハウを蓄積してきました。
アルコール問題のイメージ
AAに本人をつなぐ際、「病気」や「飲酒の有無、量」を焦点にしては「飲んでいない」のワナに陥ります。周囲からの介入では、飲酒そのものではなく、その結果として引き起こされている「具体的な問題」を捉え、その改善を求めることが重要です。
つまり「問題は、病気かどうかではなく、仕事ができるかどうか」と明確に伝えるのです。こうした業務上の行動への焦点化は管理職による介入を容易にしました。また、部下にとっても、「業務遂行のための相談」は、「病気だからする相談」よりもモチベーションを保ちやすい利点もあります。
EAPが「業務パフォーマンス」に焦点を置くのはこのためです。
近年のわが国においては、「病気そのものより、業務上の支障に焦点」という考え方が、メンタルヘルス対策を推進する上で、重要なポイントとして注目されてきています。